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ベトナム化粧品公示のとり方と「名義」の設計——輸入者名義に取られると何が起きるか

ベトナムで化粧品を正規流通させる公示(product notification)の費用・期間・2025年改正を押さえ、「誰の名義で取るか」でブランドの支配権が決まる理由と、名義を守る契約設計を実務目線で整理します。

ベトナムで自社の化粧品を正規に売るには「公示(product notification)」が要る。ここまでは多くのブランドが知っています。ところが、その公示を誰の名義で取るかまで設計している会社は驚くほど少ない。先に結論を言います。公示名義を握った者が、そのブランドのベトナム市場を実質的に支配します。 手続きの速さや費用の安さより先に、名義の設計を決めてください。現地の輸入業者に「うちの名義で取っておきますよ」と任せた瞬間に、あなたのブランドは人質になり得ます。

この記事では、公示制度の中身(費用・期間・2025年の改正)を押さえたうえで、名義をどう設計すれば支配権を手元に残せるかを、実務の順序で整理します。並行輸入への対処そのものはこちらの記事(ベトナムでの並行輸入・非正規流通からブランドを守る方法)にまとめています。

化粧品公示(product notification)とは何か

まず制度の骨格から。ベトナムでは、輸入化粧品を合法的に流通させる前に、保健当局へ「この製品を売ります」と届け出て、公布受理番号を取得する必要があります。これが公示です。日本の「届出」に近いですが、この番号を持つ名義人が、その製品の正規流通の当事者になる点が決定的に違います。

なぜ公示がないと売れないのか

公示番号のない化粧品は、正規の通関・小売ルートに乗せられません。番号なしで市場に出回っているものは、定義上すべて非正規(並行輸入・グレー・偽物)です。逆に言えば、正規で戦うための入場券が公示番号であり、その入場券を誰の名前で発行するかが、この記事の主題です。

対象になる商品

スキンケア、ヘアケア、メイクアップ、香水、ボディケアなど、いわゆる化粧品はすべて対象です。機能性を強くうたう製品(薬用・医薬部外品的なもの)は分類が変わる場合があるので、カテゴリの線引きは早い段階で現地の専門家に確認してください。ここを誤ると、公示ルートそのものが変わります。

なぜベトナムで「名義」が奪い合いになるのか

名義の話に入る前に、なぜこの市場で公示名義がここまで価値を持つのかを、数字で押さえておきます。背景が分かると、名義設計を後回しにする危うさが腹落ちします。

市場の8〜9割が輸入品という構造

ベトナムで消費される化粧品の約8〜9割は輸入品です。国内生産が需要に追いついておらず、外から入ってくる商品が市場の主役です。つまり、外国ブランドが正規に売るための「入場券」=公示番号が、そもそも価値の集中点になっている。輸入額のシェアでは韓国が約66%と圧倒的で、日本は約7.2%。ところがブランド認知では日本は約17%まで上がります(出典:業界調査各種、2024年時点)。名前は知られ欲しがられているのに、正規の供給が細い——この隙間が、名義を先に押さえた者に有利に働きます。

偽物が横行するほど、正規の「番号」に価値が出る

ベトナムでは偽造化粧品の摘発が日常的です。2025年には市場に関する違反が全国で2万3千件を超え、罰金は3,720億ドン(約1,430万米ドル)に達しました。2026年にはSNS・EC経由の偽造美容品25トンが一度に押収されています。偽物と本物が混在する市場では、「これは公示番号を持つ正規品だ」と示せること自体が武器になります。その武器を誰の名義で握るか。ここを相手に渡せば、正規のポジションごと相手に渡すことになります。

公示に着手する前に決めておく3つのこと

手続きに入る前に、先に決めておくと後戻りが減ることが3つあります。ここを飛ばして代理店任せで走り出すと、名義も費用も相手のペースになります。

ひとつめは、どのSKUから公示するか。全製品を一気に公示すると、製品数×手数料に加えて書類整備の負荷が跳ね上がります。まずは売れ筋・主力の数SKUに絞り、市場の反応を見てから広げる。ふたつめは、誰の名義で取るか——本記事の主題で、ここを最初に決めないと後の全部が相手主導になります。みっつめは、準備期間と予算をどこまで見るか。番号発行は速くても、CFSの認証や書類整備で数週間〜1〜2ヶ月かかる前提で、ローンチ日と資金を置く。この3つを自社で握ってから、現地の実務を回し始めてください。

公示の手続き・費用・期間

制度の具体を、根拠法令に沿って押さえます。ここは事実確認が命なので、数字は法令ベースで書きます。

根拠法令と必要書類

ベトナムの化粧品管理の土台は、保健省のCircular 06/2011/TT-BYTです。輸入化粧品はこの枠組みで公示します。必要になる代表的な書類は、製品情報ファイル(成分表・処方)、自由販売証明(CFS)、委任状(製造者から届出者への授権)、ラベル案などです。とくに委任状は「誰が届出者=名義人になるか」を決める書類で、後述する名義問題の入口になります。

時間を食うのは番号発行ではなく「書類の認証」

実務で一番のボトルネックになるのは、公示番号そのものの発行ではなく、その前段の書類整備です。とくに自由販売証明(CFS)は、日本側で発行を受けたうえで、公証・アポスティーユや在外公館の認証といった手続きが必要になる場合があり、ここで数週間が飛びます。成分表の現地規制への突き合わせ、ラベルのベトナム語表示対応も同様です。「番号は3営業日で出る」という説明を鵜呑みにして逆算すると、この認証待ちで確実にスケジュールが崩れます。 書類の取得と認証にかかる時間を、最初にカレンダーへ置いてください。

費用と、発行までの日数

公示手数料は1製品あたり50万ドン(日本円でおよそ3千円相当)です(Circular 277/2016/TT-BTCに基づく)。有効な書類と手数料が受理されれば、公布受理番号自体は短期間で発行され、番号の有効期間は5年です。

ここで誤解してほしくないのは、「番号発行が速い」ことと「公示が早く終わる」ことは別だという点です。番号の発行は書類が完全に揃ってからの話で、その書類(成分表の整備、CFSの取得と認証、ラベルの現地規制対応など)を整えるまでに、実務では数週間から1〜2ヶ月かかります。展開スケジュールを引くときは、この準備期間を必ず織り込んでください。「数日で売り始められる」という前提でローンチ日を決めると、まず崩れます。

2025年の改正(Circular 34/2025/TT-BYT)

制度は動いています。Circular 34/2025/TT-BYTが2025年8月18日に施行され、Circular 06/2011の一部が改正されました。公示の運用や様式に関わる変更が含まれるため、古い記事や数年前の代理店の知識をそのまま信じないこと。着手時点の最新版に沿って書類を組む必要があります。

最大の論点:公示は「誰の名義」で取るか

制度を押さえたところで、本題です。公示は誰の名義でも取れます。だからこそ、ここが一番危ない。

名義=支配権という構造

公布受理番号の名義人は、その製品の正規流通における「正規の販売者」として当局に登録される存在です。つまり、名義人の同意なしには、他のルートで同じ製品を正規流通させられない。価格の決め方、販路の広げ方、独占範囲の見直し——これらに名義人の意向が効いてきます。名義は単なる事務手続きではなく、市場のコントロール権そのものです。

輸入者名義で取られると、何が起きるか

現地の輸入業者や代理店に「こちらで公示を取ります」と任せ、相手の名義で番号が発行されたとします。すると、こういう状況が生まれます。契約を切り替えたいのに、名義が相手にあるから動けない。もっと条件の良いパートナーが現れても、既存名義人が手放さない限り正規展開できない。値上げも独占範囲の変更も相手の合意が要る。自分のブランドなのに、自分の裁量で動かせない。 並行業者は外部の敵ですが、名義を握った代理店は「正規の顔をした支配者」になり得ます。これは並行輸入より根が深い問題です。

例えば、こういう展開はよくあります。立ち上げ期に「早く売りたいから」と輸入者に公示を任せ、初年度は順調に伸びる。ところが2年目、卸値を上げようとすると名義人が渋る。別の販売網を足そうとしても「うちが正規名義だ」と拒まれる。契約解消を切り出せば、名義を盾に在庫の買い取りや高額な移転料を求められる——。最初に名義移転条項の一文を入れておけば避けられたはずのコストが、関係がこじれてから何倍にもなって返ってきます。名義は、うまくいっている時ほど手当てを忘れ、こじれてから効いてくる論点です。

ブランド名義・メーカー系名義という選択肢

ではどうするか。理想は、公示名義をブランド側(またはブランドが実質コントロールできるメーカー系の名義)に置くことです。現地に駐在員事務所や関係会社があればその名義、なければ信頼できる輸入者の名義を借りつつ、後述の契約条項で支配権を留保する。どちらにしても、「名義を誰に置き、支配権をどう残すか」をセットで設計するのが要点です。名義先だけ決めて条項を詰めないのは、鍵を渡して合鍵を作らないのと同じです。

名義を守る契約設計

名義を輸入者に置かざるを得ない場合でも、契約で支配権を手元に残せます。最低限これだけは入れてください。

名義移転条項

契約終了時や一定条件の発生時に、公示名義をブランド側または指定する第三者へ移転させる条項です。これが無いと、関係が切れても番号が相手に残り続けます。出口を最初に契約へ書き込んでおく。

運用権(価格・販売管理画面)の留保

価格決定への関与、販売チャネルの管理画面(マーケットプレイスのSeller Center等)へのアクセス権、施策への関与を、ブランド側に留保します。名義は相手でも、実際の販売コントロールはこちらが持つ、という設計です。

更新義務と費用は誰が負うか

公示番号の有効期間は5年で、更新や、改正法令への対応が発生します。この更新義務を名義人が負うのか、費用を誰が持つのか、期限管理を誰がするのかを契約に書いていないと、更新のタイミングで主導権を握られます。「番号が切れると困るでしょう」と持ちかけられて、条件を飲まされる。更新は名義とセットの論点として、最初に決めておいてください。

独占範囲と返品・処分ルール

独占を与える場合はその範囲をタイトに定義し(全チャネル独占なのか、特定チャネルだけか)、返品や滞留在庫の処分ルールも契約時に確定します。処分ルールが無いと、余った在庫が投げ売りされ、それが新たな並行流通とブランド毀損を生みます。

公示番号を持つと、非正規への打ち手が増える

名義をブランド側に置く実利は、支配権だけではありません。正規の立場を持つことで、並行品や偽物への具体的な打ち手が増えます。ここは並行輸入への対処と直結するので、少し踏み込みます。

正規販売者として、プラットフォームの権利者プログラムを使える

TikTok ShopやShopeeには、ブランド権利者・正規販売者向けの保護プログラムがあります。自社が公示番号を持つ正規の当事者であれば、非正規の出品に対して「これは正規ではない」と申し立てる根拠を持てます。名義が相手にあると、この申し立ての立場すら自分で取れません。正規のポジションは、攻めにも守りにも効く資産です。

偽物は「商標+税関記録」で止める(公示とは別レイヤー)

ここは正確に切り分けます。化粧品公示は「正規に流通できる」ための届出であって、偽物を取り締まる権利そのものではありません。 偽造品(模倣品)への水際対策は、商標登録と、ベトナム税関の知的財産記録(customs recordal)という別レイヤーで手当てします。税関に権利を記録しておくことで、輸入時点で侵害品を止めやすくなる。つまり、①公示で正規のポジションを取り、②商標+税関記録で偽物を止める、という二層で守るのが本来の姿です。公示だけで偽物まで止まると誤解すると、対策に穴が空きます。

公示を軸にした正規化の全体像

公示名義の設計は、単独で完結するものではなく、正規化全体の背骨です。順序としては、まず並行流通の実態を測り、正規チャネルを組成し、その組成の中核として名義と契約条項を設計する。この全体の進め方と、なぜ「削除」ではなく「正規化」なのかは、並行輸入からブランドを守る方法の記事で詳しく整理しています。あわせて読むと、名義設計がどこに効くのかが見えるはずです。

海外でのブランド防衛・正規化について、名義設計を含めて相談したい場合は、こちらからどうぞ。実態把握の段階からご一緒します。

ありがちな失敗

現場でよく見る、名義まわりの失敗を挙げておきます。

ひとつは、スピードを優先して現地代理店に公示を丸投げし、名義を相手に取られるケース。早く売りたい気持ちは分かりますが、後から取り返すコストは、最初に設計するコストの何倍にもなります。もうひとつは、公示を「一度取れば終わり」と考えるケース。有効期間は5年で、更新や、改正法令への対応が要ります。名義人が更新義務を負うのか、費用を誰が持つのかを契約で決めていないと、更新のタイミングで主導権を握られます。

名義パターン別のリスク比較

名義の置き方 支配権 向いているケース 注意点
ブランド/メーカー系名義 最も強い 現地に関係会社・駐在員事務所がある 現地体制の構築コストがかかる
輸入者名義+契約条項で留保 条項次第で確保可能 現地体制はこれから。信頼できる輸入者がいる 名義移転条項・運用権留保が必須。条項が甘いと支配権を失う
輸入者名義に丸投げ ほぼ喪失 (推奨しない) ブランドが人質化。関係解消時に流通が止まる

見てのとおり、支配権を残せるかどうかは「名義先」より「契約条項」で決まります。名義を相手に置くこと自体が悪いのではなく、条項なしで置くことが危険なのです。

まとめ

ベトナムの化粧品公示は、費用も発行日数もそれ自体は大きな障壁ではありません。本当の論点は「誰の名義で取るか」です。名義を握った者が市場を握る。だから、手続きの速さより先に名義の設計を決め、輸入者名義に置く場合でも名義移転条項と運用権の留保を必ず契約に入れる。これが、ベトナムで自社ブランドの支配権を手元に残す唯一の方法です。

公示名義を含めた越境の正規化を検討しているなら、実態把握の段階からご相談ください。お問い合わせはこちら


(関連:ベトナムでの並行輸入・非正規流通からブランドを守る方法EONの海外事業支援について

よくある質問

公示は自社で取れますか、現地パートナーが必要ですか?
書類の多くは現地語・現地規制に沿って整える必要があるため、実務上は現地の輸入者や専門家の関与が一般的です。ただし関与を頼むことと名義を渡すことは別です。関与は頼んでも、名義と支配権の設計は手放さないでください。
費用と期間はどのくらいですか?
公示手数料は1製品あたり50万ドン(約3千円相当)ですが、これは番号発行の手数料に過ぎません。書類整備を含めた実務のリードタイムは数週間から1〜2ヶ月を見てください。製品数が多いほど積み上がります。
すでに輸入者名義で公示されてしまいました。取り返せますか?
可能な場合はありますが、名義人の協力か名義移転の交渉が必要です。難易度は契約内容次第です。まずは現状の契約と名義の状態を確認するところから始めます。
2025年の法改正で、既存の公示はやり直しですか?
改正(Circular 34/2025)の内容により影響範囲が異なります。既存番号の有効性や次回更新時の対応を最新版に照らして確認する必要があります。古い情報で判断しないことが重要です。
EONは公示の名義を代わりに持ってくれますか?
持ちません。名義はブランド側かブランドが支配できる主体に置くべきで、支援者が名義を握るのは本末転倒だからです。EONの役割は、名義を誰に置きどの条項で支配権を残すかを設計し、正規化全体を伴走することです。