0%
Changer Capital ANRI
ベトナム / 並行輸入対策 / 越境EC

ベトナムで自社商品が勝手に売られている——日本ブランドを「正規化」で守る方法

日本の化粧品・ヘアケアがベトナムで並行輸入・非正規流通される——削除では解決しません。需要を正規チャネルで取り戻す方法を、化粧品公示制度と現地データから実務目線で整理します。

自社のスキンケアやヘアケアが、いつの間にかベトナムのTikTok ShopやShopeeに並んでいる。頼んだ覚えはない。価格は日本の希望小売価格からかけ離れていて、レビュー欄には「これは偽物では」という声も混じっている——。もしこの状況に心当たりがあるなら、先に結論を言います。やるべきは「出品を片っ端から削除させる」ことではなく、「その市場を正規のチャネルとして取り戻す」ことです。 並行輸入や非正規流通が起きているのは、多くの場合、ベトナムに需要が実在している証拠だからです。潰すのではなく、正しく回収する。そのための鍵が「化粧品公示(product notification)を誰が持つか」の設計にあります。

この記事では、なぜ日本ブランドがベトナムで狙われるのか、放置すると何が起きるのか、そして僕たちが実務で使っている「防衛・正規化」の進め方を、公開データと現地の制度に沿って整理します。

「勝手に売られている」とは、具体的にどういう状態か

まず言葉を揃えます。日本のブランドがベトナムで直面する「勝手に売られている」状態は、大きく3つに分かれます。ここを混同すると打ち手を間違えます。

並行輸入・グレーマーケット・偽物は別物

並行輸入は、正規品そのものが、メーカーの意図しないルートで持ち込まれて売られている状態です。商品は本物。問題は価格と流通経路のコントロールが効かないこと。グレーマーケットはもう少し広く、免税店や別国向けの在庫が横流しされるケースも含みます。そして**偽物(模倣品)**は、中身がそもそも別物です。この3つは、証拠の取り方も、法的な打ち手も、優先順位もまったく違います。「ベトナムで変な売られ方をしている」を一括りにせず、まずどれがどの割合で起きているかを実測するところから始めないといけません。

なぜ日本の化粧品・ヘアケアが狙われるのか

ベトナムで消費される化粧品の約8〜9割は輸入品です(※)。国内生産が追いついていない市場では、外から入ってくる商品に構造的な需要があります。その中で日本製は「安全・高品質」というイメージが定着していて、韓国製に次ぐポジションにいます。輸入額のシェアで見ると韓国が約66%と圧倒的で、日本は約7.2%。ところがブランド認知のシェアで見ると日本は約17%まで上がります。つまり「名前は知られていて欲しがられているのに、正規の供給が細い」——これが並行業者にとって一番おいしい状態です。需要はあるのに正規ルートがない隙間を、彼らが先に埋めてしまう。

(※ベトナム化粧品市場は2024年時点で約23〜27億米ドル規模。出典:IMARC Group、Vietnam Briefing ほか)

「知らないうちに」起きてしまう構造

厄介なのは、これがブランド側の落ち度なしに起きることです。日本の店頭やECで買った正規品を、ベトナムの業者がまとめ買いして持ち込み、現地マーケットプレイスに出す。この時点でメーカーは一切関与していません。TikTok ShopやSNSは個人でも出品・配信ができるので、参入のハードルが極端に低い。気づいたときには、自社の名前で、自社が決めていない価格の商品が、自社が管理していない品質で流通している。この状態を放っておくと、後で正規展開しようとしたときに、自分の首を絞めることになります。

データで見る、ベトナムの非正規・偽物流通の実態

「うちだけの話だろうか」と思うかもしれませんが、これは市場全体の構造的な問題です。数字で見ておきます。

市場の8〜9割が輸入品という土壌

前述のとおり、消費される化粧品の大半が輸入という市場では、正規・非正規を問わず「外から入ってくる商品」が主役です。裏を返せば、通関や公示のコントロールが甘い商品ほど、非正規のまま流通しやすい。

偽造品の摘発は「日常」の規模

ベトナム当局の取り締まりは年々強化されています。2025年には全国で市場に関する違反が2万3千件を超え、罰金の総額は3,720億ドン(約1,430万米ドル)に達しました。2026年に入ってからも、SNSやECで流通していた偽造美容品25トンが一度の摘発で押収されています。米国通商代表部(USTR)の2024年「悪名高い市場(Notorious Markets)」リストにも、ベトナムのプラットフォームが名指しで挙がっている。これは「一部の悪質業者の例外」ではなく、市場に構造的に埋め込まれた問題だという意味です。偽物が横行する市場では、本物のブランドほど巻き添えを食います。

TikTok Shop・SNSが温床になりやすい理由

ベトナムのEC市場でTikTok Shopのシェアは急拡大していて、2025年上半期には市場の約4割を占めるまでになりました。この爆発的な成長は、正規ブランドにとってチャンスであると同時にリスクでもあります。誰でも配信して売れる場は、並行業者や模倣品業者にとっても最高の販路だからです。成長する市場ほど、非正規流通も一緒に伸びる。ここで先に正規のポジションを取れるかどうかが、その後の数年を左右します。

自社が並行流通されているかを、どう見分けるか

「うちは大丈夫だろうか」を、代理店に聞く前に自分で確かめる方法があります。特別なツールがなくても、無料でできる一次チェックを3つ挙げます。ここで異常が見つかったら、次は実態調査で数字に落とす段階です。

価格の異常を見る

ベトナムのマーケットプレイス(TikTok Shop、Shopee、Lazada、Hasakiなど)で自社ブランド名をベトナム語・英語・日本語で検索し、表示価格を日本の希望小売価格と並べます。日本の店頭より極端に安い、あるいは逆に不自然に高い出品が並んでいたら、正規ルートを通っていない可能性が高い。特に、複数の出品者が別々の価格で同じ商品を出している状態は、流通がコントロールされていない典型的なサインです。

レビューと商品ページの異常を見る

商品ページの写真とレビューを確認します。パッケージが古い、日本語ラベルのまま説明書きがない、成分表示が現地規制に沿っていない——こうした出品は並行品か、最悪は偽物です。レビュー欄に「効果がない」「本物か不安」という声が並んでいたら、偽物が混ざっているサインとして重く見たほうがいい。あなたのブランド名で、あなたの管理外の品質評価が積み上がっている状態です。

検索結果と出品者の異常を見る

自社の正規販売者リストと、実際に出品している業者を突き合わせます。知らない業者名、個人アカウント、ライブ配信で叩き売っている配信者が出てきたら、そこが並行・非正規のルートです。出品者の数が想定より多いほど、流通は制御を離れています。ここまでを一度ざっと見るだけで、「削除で足りるのか、正規化まで踏み込むべきか」の当たりがつきます。

並行輸入・非正規流通が、ブランドに与える3つの損害

「本物が売れているならいいじゃないか」と考える方もいます。短期的にはそう見えても、放置すると3つの形でブランドの資産が削られていきます。

1. 価格が崩れ、二度と戻せなくなる

並行業者は正規の建値を守る義務がありません。安く仕入れて、現地で叩き売る。一度「この商品はこの価格」と市場に刷り込まれると、後から正規価格で入っても「高い」と見なされます。価格は一度崩れると戻せない。これがブランド毀損の中でも一番回復が難しい部分です。

2. 偽物とセットで語られ、信頼が焼ける

非正規のチャネルには本物と偽物が混在します。消費者は見分けられません。偽物を掴まされた人の悪いレビューが、あなたの正規品のページにも影を落とす。「日本ブランドなのに効果がない」「肌が荒れた」という声が、実は偽物由来でも、ブランド名で検索した人の目には区別なく入ります。積み上げてきた信頼が、自分の関与しないところで焼かれていく。

3. 正規展開の芽を、自分より先に潰される

いざベトナムで正規展開しようとしたとき、すでに並行品が市場を埋めていると、価格でも棚でも不利なところからのスタートになります。現地の正規パートナーを探しても、「もう安く出回っているブランドを、いま正規で扱う旨味がない」と敬遠される。放置した期間の長さが、そのまま参入コストに跳ね返ってきます。

放置と正規化、どちらが安いか

ここで一度、感情ではなく損得で考えてみます。並行流通を「見て見ぬふり」した場合と、早めに正規化に動いた場合を並べます。

観点 放置した場合 早期に正規化した場合
価格コントロール 市場価格が崩れ、回復困難 建値を設計してから展開できる
品質・偽物リスク 偽物の悪評をブランドが被る 正規品を可視化し、偽物と分離できる
現地パートナー 「もう安く出回っている」と敬遠される 独占・優先の条件で組める
参入タイミング 遅れるほど不利なスタート 成長市場で先行者ポジションを取れる
コスト構造 損害が静かに積み上がる 調査・組成の初期投資で止血できる

放置は「コストがかからない」ように見えて、実際には価格と信頼という戻せない資産を静かに失い続けます。並行流通が起きているという事実は、裏を返せば「その市場に需要が確認できている」ということ。だから僕たちは、まず削除に走るのではなく、その需要を正規で回収する設計から入ることを勧めています。

海外でのブランド防衛や越境展開の相談は、こちらからお気軽にどうぞ。実態が分からない段階でも構いません。

ブランドを守る鍵は「化粧品公示を誰が持つか」

ここが、この記事で一番伝えたい実務のポイントです。ベトナムで化粧品を合法的に流通させるには「公示(product notification)」が必要です。そしてこの公示を誰の名義で取るかが、そのブランドのベトナムでの支配権を決めます。

化粧品公示(product notification)とは

ベトナム保健省のCircular 06/2011/TT-BYTが、輸入化粧品の流通ルールの土台です。輸入化粧品はこの公示手続きを経て、公布受理番号を取得しないと正規に流通できません。手数料は1製品あたり50万ドン(日本円でおよそ3千円相当)、受理番号は有効な書類の提出後に発行され、有効期間は5年です。制度は2025年8月施行のCircular 34/2025/TT-BYTで一部改正されており、最新版に沿って進める必要があります。

注意してほしいのは、「受理番号の発行」自体は書類が揃えば短期間で下りますが、その書類を整えるまでの準備(成分表、CPSF、ラベル、証明書類など)に実務では数週間〜1〜2ヶ月かかることです。「数日で終わる」という話ではありません。ここを甘く見積もると、展開スケジュール全体が崩れます。

公示名義=支配権、という落とし穴

公示は誰の名義でも取れます。だからこそ危険です。多くのブランドが、現地の輸入業者や販売代理店に「うちの名義で公示を取っておきますよ」と言われて、そのまま任せてしまう。ところが公示名義を握った側が、そのブランドのベトナム市場を実質的に握ることになります。名義人の許可なしには、他のルートで正規に流通させられない。価格も、販路も、名義人に主導権が移る。気づいたときには、自分のブランドなのに自分でコントロールできない、という状態になります。

輸入商名義で取られると、何が起きるか

具体的には、こういうことが起きます。契約を切り替えたいのに名義が相手にあるから動けない。別の有力なパートナーが現れても、既存名義人が手放さない限り正規展開できない。値上げも、独占範囲の見直しも、相手の同意が要る。つまり、ブランドが人質に取られる。これは並行輸入よりも根が深い問題です。並行業者は外部の敵ですが、名義を握った代理店は「正規の顔をした支配者」になり得ます。

だから僕たちは、正規化を進めるときに必ず公示名義の設計を最初の論点に置きます。 メーカー系列の名義にする、あるいは輸入商名義にする場合でも名義移転条項とブランド側の運用権(価格決定への関与や販売管理画面へのアクセス)を契約に必ず入れる。ここを詰めずに走ると、後で取り返しがつきません。

EONの「防衛・正規化」の進め方

では実際にどう動くか。僕たちが使っている手順を、そのまま開きます。

ステップ1:並行流通の実態を測る

最初にやるのは「削除」ではなく「計測」です。誰が、どこから、いくらで、どれだけ売っているのか。本物と偽物の比率はどうか。トレーサビリティは追えるのか。ベトナムのマーケットプレイス(TikTok Shop、Shopee、Hasakiなど)を横断して、並行流通の実態を数字で可視化します。ここで初めて、打ち手の優先順位がつきます。感覚で「全部消せ」と動くと、コストばかりかかって市場は取り戻せません。

なお、この「ブランド別にいくら並行流通しているか」という定量データは、公開の市場レポートには存在しません。マーケットプレイスを実際にスクレイピングして自前で計測するしかない領域です。だからこそ、ここを押さえているかどうかが正規化の成否を分けます。

ステップ2:正規チャネルを組成する

実態が見えたら、正規の販路を作ります。現地の信頼できる輸入者・販売者と、価格の建て方、独占範囲、返品や滞留在庫の処分ルールまで含めて設計する。ここで重要なのは、並行品より「正規品を買う理由」を消費者に作ること。正規保証、正しい使い方の情報、KOC(現地の身近な発信者)を通じた信頼の醸成——安さでは並行業者に勝てないので、信頼と体験で分けます。

ステップ3:公示名義と契約条項を設計する

前章で書いたとおり、公示名義の設計を正規化の背骨に据えます。名義移転条項、運用権の留保、返品・処分ルール、独占の範囲を狭く正確に定義する。この設計図があるかないかで、2年後にブランドが自由に動けるかどうかが決まります。

海外でのブランド防衛・正規化を検討していて、まず実態だけでも把握したいという段階なら、お問い合わせはこちら。調査の入口から一緒に整理します。

自社でやるか、パートナーに任せるか

最後に、この一連の作業を自社で抱えるか、外部に任せるかの判断軸を整理します。

進め方 向いているケース 注意点
自社で対応 現地に法人・駐在があり、ベトナム語と制度に精通した人材がいる 公示・契約・現地交渉を全部内製できる体制が前提。片手間だと名義設計を見落とす
現地代理店に丸投げ とにかく早く売りたい 公示名義を相手に握られやすい。支配権を失うリスクが最も高い
越境の実務パートナーと組む 需要はありそうだが、現地体制も制度知識もこれから 実態調査から名義設計まで伴走できる相手を選ぶ。「運用代行」ではなく「防衛・正規化」を語れるかで見分ける

どれが正解かは、ブランドの体制と、並行流通がどこまで進んでいるかで変わります。共通して言えるのは、「削除代行です」「運用代行です」としか言わない相手には、この問題は解けないということ。並行輸入の防衛は、削除でも運用でもなく、市場の支配権を取り戻す設計だからです。

まとめ

ベトナムで自社商品が勝手に売られている——それは危機であると同時に、需要が実在するというサインです。やるべきは、片っ端から削除して疲弊することではなく、その市場を正規のチャネルとして取り戻すこと。そのために、①並行流通の実態を数字で測り、②正規チャネルを組成し、③公示名義と契約条項を設計する。特に公示名義は、ベトナムでのブランドの支配権そのものです。ここを最初に押さえられるかどうかで、その後の数年が決まります。

僕たちEONは、日本のブランドがアジア市場で「選ばれ続ける」ための越境の実務を伴走しています。まず実態を把握したいという段階でも構いません。お問い合わせはこちら


(関連:EONの海外事業支援について記事一覧

よくある質問

出品削除を依頼すれば解決しますか?
一時的には減りますが、根本解決にはなりません。需要がある限り、消しても別の業者が出品します。削除はあくまで対症療法で、本質は正規の受け皿を作って需要を正規側に流すことです。
まだ被害が小さいのですが、今から動く必要がありますか?
早いほど有利です。価格は一度崩れると戻せず、並行品が市場に定着するほど正規化のコストが上がります。被害が小さい今のうちに実態を測っておくことを勧めます。
公示は現地の代理店に任せておけば安心ですか?
ここが最大の落とし穴です。公示名義を握った側が市場の主導権を持ちます。任せる場合でも、名義移転条項と運用権をブランド側に残す契約にしないと、後でブランドが動けなくなります。
偽物と並行輸入(本物)は、対応が同じですか?
違います。偽物は知的財産権の侵害として法的措置や当局への通報が絡み、並行輸入(本物)は流通コントロールと正規化で対応します。まず両者の比率を実態調査で分けることが先決です。
費用はどのくらいかかりますか?
並行流通の実態調査と正規化スキームの設計から始めるのが一般的で、規模や商品数によって変わります。まずは現状のヒアリングから、必要な範囲を一緒に見積もります。お問い合わせフォームからご相談ください。