タイでIT事業を立ち上げて分かった、日本企業が見落とすこと
タイのIT市場、BOI税制優遇、人材事情を、東南アジアでの事業支援経験をもとに率直に書きました。
タイのIT市場は、東南アジアの中でも独特のポジションにあります。シンガポールほどコストが高くなく、ベトナムほど製造業一辺倒でもない。デジタルインフラが整っていて、バンコクに行けば英語が通じるIT人材がそれなりに見つかる。
でも、「タイ=安くて優秀なエンジニアが簡単に雇える」と思って行くと、現実とのギャップに苦しむことになります。僕たちがタイで見てきた景色を、率直に書きます。
タイのIT市場で起きていること
タイ政府が「Thailand 4.0」を掲げてデジタル産業の育成に本腰を入れてから、もう数年が経ちました。結果として何が起きたかというと、デジタル経済の規模が約360億ドルに到達し、インターネット普及率78%、スマホ普及率95%という環境ができました。
特に伸びているのはFinTech、HealthTech、EdTechの3領域。タイの銀行口座保有率は65%程度で、まだ「unbanked」層が多い。ここを狙ったモバイル決済やレンディングサービスは成長余地が大きいです。
日系IT企業にとってのチャンスは、日本で磨いたプロダクトをタイ市場向けにローカライズすること。ただし、日本で売れたものがそのまま売れると思ったら大間違いです。タイのユーザーの行動パターンは日本と全然違う。ここを軽く見て撤退した企業を何社も知っています。
BOI優遇税制 — 使わない手はない
タイ進出でIT企業が最初に押さえるべきはBOI(投資委員会)の優遇税制です。正直、これを使わずにタイで事業をやるのはもったいない。
| 優遇内容 | 条件 | 期間 |
|---|---|---|
| 法人税免除 | ソフトウェア開発、デジタルサービス | 最大8年 |
| 法人税50%減税 | 免税期間終了後 | 最大5年 |
| 機械・設備の輸入税免除 | BOI認可事業 | 恒久的 |
| 外国人就労許可の簡素化 | BOI認可企業 | 事業期間中 |
8年間法人税ゼロ。これはかなり大きい。さらにEEC(東部経済回廊)地域に進出すると追加の優遇が付きます。
BOI申請自体はそこまで複雑ではないんですが、申請書の書き方にコツがある。「タイの経済発展にどう貢献するか」を明確に書けるかどうかで、認可の可否と優遇の範囲が変わります。ここは経験のあるコンサルに頼んだ方がいい。
人材の話 — 量はある、質は期待しすぎるな
タイのIT人材市場は、量的には恵まれています。大学のIT学部から毎年約5万人が卒業する。バンコクのIT人材の平均給与は月3〜8万バーツ(約12〜32万円)で、日本の3分の1から5分の1です。
ただし、ここに罠がある。
シニアエンジニア(経験5年以上)の獲得競争は熾烈です。Samsung、Agoda、Grab、Line Thailandあたりが上位人材を囲い込んでいて、日系企業が同じ土俵で戦うのは厳しい。特にAI/ML分野の人材は圧倒的に足りていません。
もう一つ、離職率の問題。タイのIT業界の平均離職率は年15〜20%です。入社して1年で辞めるエンジニアは珍しくない。
じゃあどうするか。僕たちが見てきた中で一番うまくいっているのは、ジュニアを採用して自社で育てるモデルです。タイのエンジニアは学習意欲が高い。日本式の丁寧な育成プログラムと、明確なキャリアパスの提示。この2つをセットで出すと、定着率がかなり上がります。
進出形態 — いきなり法人をつくる必要はない
製造業と違って、IT企業は進出の選択肢が多い。
現地法人設立(BOI認可取得) が王道。最低資本金200万バーツ(約800万円)で、税制優遇とビザ取得の容易さがメリット。本格的にタイ市場を攻めるならこれ一択です。
でも最初からフルコミットする必要はなくて、EOR(Employer of Record)を使ってリモートチームを先につくるという手もある。法人設立せずにタイ人エンジニアを2〜3人雇って、プロダクトのタイ対応をテストする。それでイケそうなら法人化する。この段階的アプローチはリスクが小さいです。
タイで成功している日系IT企業の共通点
タイで伸びている日系IT企業に共通するのは、日本向けプロダクトの横展開ではなく、タイ市場固有の課題を解決していることです。
製造業向けDXソリューションは好例で、タイの主力産業である自動車・電子機器メーカーのデジタル化ニーズを的確に捉えています。物流テックもEC市場の拡大に伴って急成長中。
逆に、日本で成功したSaaSをそのままタイに持ち込んで苦戦しているケースも多い。UIの言語対応だけでは全然足りなくて、ワークフロー自体をタイの商習慣に合わせる必要があります。
最後に
タイはBOI税制優遇、デジタルインフラの成熟、バンコクへのアクセスの良さという点で、IT企業の東南アジア進出には良い選択肢です。ただし「人件費が安いからオフショア開発拠点にしよう」という発想だと、もっとコストの安い国に負ける。
タイで勝つなら、タイ市場そのものを攻める覚悟がいる。
EONではタイを含む東南アジアへのIT企業進出を、市場調査からBOI申請サポート、人材獲得戦略まで支援しています。まずは壁打ちから。
よくある質問
- タイでIT企業を設立する最低資本金は?
- BOI認可を取得する場合、最低資本金200万バーツ(約800万円)です。法人設立せずにEOR(Employer of Record)を使えば、まずはリモートチーム構築から始めることもできます。
- タイのITエンジニアの給与相場は?
- バンコクで月3〜8万バーツ(約12〜32万円)。ジュニアなら3〜4万バーツ、シニアで6〜10万バーツが目安です。AI/ML分野はもっと高くなります。
- BOIの法人税免除は本当に8年間?
- ソフトウェア開発・デジタルサービス分野では最大8年間の法人税免除が適用されます。さらにEEC地域だと追加優遇もあります。ただし申請内容によって期間は変わるので、申請書の書き方が重要です。