海外事業展開の実務ハンドブック — 法人設立からビザ、税務、撤退まで
海外法人設立、ビザ取得、税務、人材採用、パートナー選定、撤退手続きまで。海外事業の実務をこの1記事で網羅。
海外進出を「決めた後」に直面するのが実務の壁です。法人をどうやって作るのか、ビザはどう取るのか、税務申告はどうなるのか。戦略の話は山ほどあるのに、実務の話は断片的にしか出てこない。
この記事は、海外事業展開の実務を1本にまとめた「ハンドブック」です。僕たちEONが支援先企業と一緒に乗り越えてきた実務のポイントを、項目ごとに整理します。
法人設立 — 国ごとに全然違うルール
海外法人の設立手続きは国によって大きく異なります。共通しているのは「想定より時間がかかる」ということ。
| 国 | 法人形態 | 最低資本金 | 設立期間 | 外資100%可 |
|---|---|---|---|---|
| ベトナム | LLC | なし(業種による) | 1〜2ヶ月 | 多くの業種で可 |
| タイ | BOI認可法人 | 200万バーツ(約800万円) | 2〜3ヶ月 | BOI認可で可 |
| インドネシア | PT PMA | 100億ルピア(約800万円) | 2〜4ヶ月 | 可(ネガティブリスト確認) |
| カザフスタン | TOO | 約8万円 | 2〜4週間 | 可 |
設立手続き自体は現地のコンサルタントに任せるのが正解です。自力でやると、書類の不備で何度もやり直しになる。コンサル費用(50〜200万円)は投資対効果が高い。
国別の詳細費用はベトナム、タイ、インドネシア、カザフスタンの各記事を参照してください。
ビザ・労働許可 — 駐在員の最初のハードル
日本人が海外で働くには、就労ビザと労働許可証が必要です。これが意外と手間とコストがかかる。
共通するポイント:
- 法人設立が先、ビザはその後。法人がないとビザは取れない
- 1人あたり初年度50〜100万円は見る
- 申請から取得まで1〜3ヶ月
- 毎年更新が必要(更新費用30〜50万円/年)
最近増えているのが、EOR(Employer of Record)を使って法人設立前に現地人材を先に雇うパターン。日本人駐在員のビザ手続きと並行して、現地チームの構築を進められる。
税務 — 知らないでは済まされない
海外事業の税務は日本の税制と全く異なります。そして国ごとにルールが違う。
必ず押さえるべき3点:
1. 移転価格税制。 日本本社と海外子会社間の取引価格が「独立企業間価格」でないと、税務当局から追徴課税される。これは日本側でも海外側でも起きるので、両方の税務コンサルに確認が必要。
2. PE(恒久的施設)リスク。 駐在員事務所のつもりが、実態として営業活動をしていると「恒久的施設」と認定され、法人税の納税義務が発生する場合がある。
3. 租税条約の活用。 日本は多くの国と租税条約を結んでおり、配当・利子・ロイヤリティの源泉税率が軽減される。活用しないと二重課税になる。
税務コンサルタントの月額費用(20〜50万円)は、追徴課税のリスクを考えれば安い保険です。
人材採用 — 現地で「良い人」を見つけるには
海外拠点の成否を分けるのは、結局のところ「人」です。
採用チャネル:
- 人材紹介会社(日系の現地法人が便利。Reeracoen、JACなど)
- LinkedInでのダイレクトスカウト(IT人材に有効)
- 大学との連携(新卒採用はベトナム・タイで活発)
- EORサービス(Deel、Remote等)
定着のコツ:
- 明確なキャリアパスの提示(昇進の基準を言語化する)
- 日本式の丁寧な研修(東南アジアのワーカーは学習意欲が高い)
- 給与を市場相場の+10〜15%に設定する(離職防止の最も確実な方法)
パートナー選定 — 信頼できる相手をどう見極めるか
海外ではディストリビューター、エージェント、合弁パートナーなど、現地パートナーの存在が不可欠です。
見極めのポイント:
- 財務状況の確認(最低3年分の決算書を見る)
- 既存の取引先リストの確認(日系企業との取引実績があるか)
- 少額の取引から始めて実績を確認(いきなり大型契約を結ばない)
- 契約書は必ず現地の弁護士にレビューしてもらう
「紹介されたから信頼できる」は危険。必ず自分の目で確認する。
撤退 — 誰も語りたがらないけど、最も知るべきこと
海外法人の撤退(清算)は、設立の3〜5倍の時間とコストがかかります。
撤退にかかるもの:
- 清算手続き: 6ヶ月〜2年
- 従業員への退職金: 現地法の規定に従う(ベトナムは勤続年ごとに半月分の給与)
- 税務当局との最終申告: 税務調査が入ることも
- リース・契約の解約: 違約金が発生する場合あり
撤退コストの詳細はこちらで書いています。
進出時に「3年後にこの数字が達成できなければ撤退する」という基準を決めておくのが、撤退判断を遅らせないコツです。
この記事を起点に
実務の全体像が見えたら、次は自社の進出先に合わせた具体情報を。海外進出の始め方、東南アジア国別比較、業種別ガイドも合わせてどうぞ。
EONでは実務の伴走支援を行っています。こちらから相談できます。
よくある質問
- 海外法人設立にどのくらいの期間がかかる?
- 国によりますが、ベトナム1〜2ヶ月、タイ2〜3ヶ月、インドネシア2〜4ヶ月が目安。カザフスタンは2〜4週間と比較的早い。現地コンサルに任せないと倍以上かかる場合があります。
- 海外事業の税務で一番注意すべきことは?
- 移転価格税制です。日本本社と海外子会社間の取引価格が不適切だと、両国の税務当局から追徴課税されます。進出時から税務コンサルタントと連携してください。
- 海外拠点の撤退にどのくらいかかる?
- 設立の3〜5倍の時間とコストが目安。清算手続きだけで6ヶ月〜2年、従業員退職金・税務清算・リース解約金が別途発生します。進出時に撤退基準を決めておくのが重要です。
- EOR(Employer of Record)とは?
- 法人設立なしで海外の人材を合法的に雇用できるサービスです。EOR会社が雇用主となり、給与支払い・社会保険・税務を代行。テスト参入やリモートチーム構築に最適です。