海外進出の手順を5ステップで整理。初めての企業が迷わない進め方
海外進出の手順を5ステップで徹底解説。目的の言語化から情報収集、市場調査、進出形態の決定、現地立ち上げまで。中小企業向けに期間・費用・事例を交えて解説。
海外進出を考え始めた企業が最初に直面するのは「何から手をつけたらいいかわからない」という問題です。戦略も大事だけど、まず全体の流れが見えないと動けない。
僕たちEONが支援してきた企業の多くは、この「全体像が見えない」ことで数ヶ月を無駄にしています。逆に言えば、手順さえわかれば最初の一歩は思ったより軽い。
この記事では、海外進出の手順を5つのステップに整理して、「初めての企業が迷わない進め方」を解説します。各ステップで何をやるべきか、どのくらいの期間と費用がかかるか、よくある失敗パターンは何か。実務ベースで書きます。
全体のタイムラインを先に見る
5ステップの全体像
| ステップ | 内容 | 期間目安 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 目的の言語化 | 2〜4週間 | 0円(社内作業) |
| 2 | 情報収集と候補国の絞り込み | 1〜3ヶ月 | 0〜100万円 |
| 3 | 市場調査 — 数字で裏を取る | 2〜4ヶ月 | 50〜500万円 |
| 4 | 進出形態の決定と事業計画 | 1〜2ヶ月 | 0〜100万円 |
| 5 | 現地立ち上げと運用開始 | 3〜6ヶ月 | 200〜2,000万円 |
| 合計 | — | 8〜16ヶ月 | 250〜2,700万円 |
「海外進出=数年がかりの大プロジェクト」と思っている方もいますが、中小企業の場合は8〜16ヶ月で立ち上げまでいけることが多い。規模を小さく始めれば、もっと早いケースもあります。
ステップ1: 目的を言語化する — ここが全ての起点
なぜ目的の言語化が最初なのか
「海外に出たい」は目的ではありません。目的を曖昧なまま進むと、候補国も決められないし、進出形態も選べない。結果的に全てが中途半端になる。
僕たちが支援先に最初に聞くのは「なぜ海外に出たいのか」です。驚くほど多くの企業が、この質問に明確に答えられない。
目的の4類型
海外進出の目的は大きく4つに分類できます。
| 目的類型 | 具体例 | 適した進出先 |
|---|---|---|
| コスト削減 | 製造コストの削減、人件費の圧縮 | ベトナム、インドネシア、カザフスタン |
| 市場開拓 | 新しい顧客を獲得したい | タイ、インドネシア(人口が多い国) |
| 人材獲得 | 優秀なエンジニアを採用したい | ベトナム、フィリピン |
| リスク分散 | 日本市場への過度な依存を減らしたい | 複数国に分散 |
目的を言語化する3つの問い
問い1: 「3年後にどうなっていたいか」を数字で書けるか? 例えば「3年後に海外売上1億円」「3年後にエンジニア10名体制」のように。数字にできないなら、まだ目的が曖昧です。
問い2: 「なぜ今なのか」を説明できるか? 来年でも再来年でもなく、今動く理由は何か。この問いに答えられないなら、まだ準備が整っていない可能性がある。
問い3: 「海外でなければダメな理由」は何か? 国内で同じ目的を達成できないか。海外でしか得られないものがあるかどうか。
やりがちな失敗
「社長の個人的な思い入れ」だけで進む。 社長が「ベトナムに行きたい」と言っているだけで、なぜベトナムなのか、何を達成したいのかが不明確。このパターンは途中で方向性がブレて、結局何も成果が出ないまま撤退することが多い。
目的が多すぎる。 「コスト削減もしたいし、新市場も開拓したいし、人材も採りたい」。全部やろうとすると、どれも中途半端になる。優先順位を1つに絞る。
ステップ2: 情報収集と候補国の絞り込み
情報収集の3つのレイヤー
レイヤー1: デスクリサーチ(無料〜低コスト)
| 情報源 | 得られる情報 | コスト |
|---|---|---|
| JETRO海外ビジネス情報 | 国別の基本情報、規制、統計 | 無料 |
| 各国投資促進機関のサイト | 投資優遇制度、手続きの概要 | 無料 |
| 在外日本商工会議所の報告書 | 現地の日系企業動向 | 無料〜低額 |
| 業界団体の海外市場レポート | 業界特有の市場情報 | 無料〜有料 |
レイヤー2: 専門家ヒアリング(低コスト)
| 相談先 | 得られる情報 | コスト |
|---|---|---|
| JETRO無料相談 | 進出先候補の絞り込み | 無料 |
| 中小機構 | 進出全般のアドバイス | 無料 |
| 現地の日本人コンサルタント | 現場のリアルな情報 | 初回無料〜5万円 |
| 既に進出している企業(同業者) | 生の経験談 | 無料(人脈次第) |
レイヤー3: 現地視察(中コスト)
デスクリサーチとヒアリングで候補国を2〜3カ国に絞ったら、現地視察に行く。ただし「見に行くだけ」の視察は無駄になりがち。
効果的な視察のポイント:
- 最低5社のアポイントを事前に取る
- 工業団地、オフィス、現地パートナー候補を訪問
- JETRO現地事務所への挨拶(紹介を受けられることが多い)
- 1カ国あたり3〜5日が目安
- 視察費用: 1人あたり30〜50万円(渡航・宿泊・通訳込み)
候補国の絞り込みフレームワーク
候補国を比較する際は以下の6項目でスコアリングすると整理しやすい。
| 評価項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 市場規模 | 自社製品・サービスの潜在顧客数 |
| コスト環境 | 人件費、賃料、法人設立費用 |
| 規制環境 | 外資規制、許認可、業種特有の規制 |
| インフラ | 交通、通信、電力、物流 |
| 人材の質と量 | 必要なスキルを持つ人材の確保可能性 |
| リスク | 政治、為替、法的リスク |
ASEAN主要国の比較とカザフスタン進出ガイドで各国の詳細を確認してください。
事例: 精密部品メーカーG社の候補国選定
精密部品メーカーG社(従業員35名)は、製造コスト削減を目的に海外進出を検討。最初は漠然と「東南アジア」と考えていましたが、候補国の絞り込みフレームワークを使って評価した結果、ベトナム・タイ・インドネシアの3カ国に絞り込みました。さらに現地視察を経て、部品サプライヤーの集積度と工業団地の品質でベトナム北部を選定。この絞り込みプロセスに3ヶ月かかりましたが、「正しい国を選ぶ」ことで後の進出がスムーズに進みました。
ステップ3: 市場調査 — 数字で裏を取る
市場調査でやるべき3つのこと
1. 市場規模の定量化。 「大きそう」ではなく、数字で把握する。TAM(潜在市場規模)→SAM(到達可能市場)→SOM(短期的に獲得可能な市場)のフレームワークが有効。
2. 競合分析。 現地の競合は誰か。日系企業はもちろん、韓国・中国・欧米企業の動向も把握する。特に「なぜ競合がそこにいるのか(いないのか)」を理解することが重要。
3. 顧客ニーズの検証。 想定顧客に直接聞く。デスクリサーチだけでは、現地の顧客が本当に自社の製品・サービスを求めているかはわからない。最低10社へのヒアリングを推奨。
市場調査の方法と費用
| 調査方法 | 費用 | 期間 | 精度 |
|---|---|---|---|
| デスクリサーチ(自社実施) | 0〜10万円 | 2〜4週間 | 低〜中 |
| JETRO委託調査 | 0〜50万円 | 1〜3ヶ月 | 中 |
| 現地コンサルへの調査委託 | 100〜300万円 | 2〜4ヶ月 | 高 |
| 調査会社への包括委託 | 300〜500万円 | 3〜6ヶ月 | 高 |
僕たちがおすすめする調査の進め方
予算が少ない場合(50万円以下): JETRO委託調査+自社デスクリサーチ+現地視察時のヒアリング。これだけでも十分な情報が集まることが多い。
予算がある場合(100万円以上): 現地コンサルに調査を委託。ただし「丸投げ」ではなく、調査項目を自社で設計し、中間報告で方向性を確認しながら進める。
市場調査でやってはいけないこと
日本の市場データを当てはめない。 「日本でこれだけ売れているから、人口1億のベトナムでもこのくらい売れるはず」という推計は危険。購買力、文化、競合環境が全く違う。
ポジティブなデータだけ集めない。 経営層が「進出する」と決めた後の市場調査は、進出を正当化するデータばかり集めがち。ネガティブな情報(リスク、競合の強さ、規制の壁)こそ重要。
1回の視察で判断しない。 最低2回は現地に行く。1回目は全体像の把握、2回目は具体的なパートナー・物件・人材の確認。費用の全体感を事前に把握しておくと、調査の予算配分も決めやすくなります。
ステップ4: 進出形態の決定と事業計画
進出形態の比較
| 進出形態 | 初期費用 | リスク | 自由度 | 適したフェーズ |
|---|---|---|---|---|
| 輸出(越境EC含む) | 低(50〜200万円) | 低 | 低 | テスト段階 |
| EOR(現地人材の雇用代行) | 低(100〜300万円) | 低 | 中 | テスト〜初期 |
| 駐在員事務所 | 中(200〜500万円) | 低 | 低(営業不可) | 情報収集段階 |
| 現地法人(100%子会社) | 高(300〜1,000万円) | 中〜高 | 高 | 本格展開 |
| 合弁会社(JV) | 高(500万円〜) | 高 | 中 | 外資規制対応 |
| フランチャイズ | 中 | 中 | 低 | 飲食・小売 |
進出形態の選び方 — 3つの判断基準
基準1: 現地で売上を立てる必要があるか。 YESなら現地法人かJVが必要。駐在員事務所では営業活動はできない。
基準2: 初期投資を抑えたいか。 YESならEORか輸出から始める。法人設立は手応えを確認してからでも遅くない。
基準3: 外資規制はあるか。 インドネシアやフィリピンの一部業種では外資100%が認められない。その場合はJVか現地パートナーとの提携が必要。
事業計画に入れるべき5つの要素
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 市場分析 | ステップ3の調査結果を要約 |
| 収益計画 | 3年間のP/L(売上・原価・販管費・営業利益) |
| 投資計画 | 初期投資額と資金調達方法 |
| 組織計画 | 人員体制(日本人駐在員+現地スタッフ) |
| 撤退基準 | 「この数字が達成できなければ撤退」の基準 |
事業計画でよくある失敗
売上予測が楽観的すぎる。 「1年目から黒字」は例外中の例外。東南アジアの現地法人が黒字化するまでの平均は2〜3年。計画には最低3年分の赤字を織り込む。
撤退基準がない。 「撤退」を事業計画に書くのは後ろ向きに見えるかもしれないが、逆。撤退基準があることで、冷静な判断ができる。撤退のコストとリスクを理解しておくことが重要です。
日本人駐在員のコストを過小評価する。 駐在員1人の年間コストは1,000〜2,000万円(給与+住居+手当+ビザ)。現地スタッフの5〜10倍。駐在員を1人減らすだけで年間1,000万円のコスト削減になる。
ステップ5: 現地立ち上げと運用開始
立ち上げのタスクリスト
| タスク | 期間 | 担当 |
|---|---|---|
| 法人設立手続き | 1〜4ヶ月 | 現地コンサル |
| 銀行口座開設 | 1〜2ヶ月 | 現地コンサル+自社 |
| オフィス・拠点の確保 | 2〜4週間 | 自社(コンサル支援) |
| ビザ・労働許可の取得 | 1〜3ヶ月 | 現地コンサル |
| 人材採用 | 1〜3ヶ月 | 人材紹介会社 or 自社 |
| 会計・税務体制の構築 | 2〜4週間 | 現地会計事務所 |
| IT環境の構築 | 1〜2週間 | 自社 or IT業者 |
| 営業活動の開始 | — | 自社 |
立ち上げでよくあるトラブルと対策
トラブル1: 銀行口座が開けない。 特にベトナムとインドネシアでは、法人登記後に銀行口座開設までさらに1〜2ヶ月かかることがある。対策: 法人設立と並行して銀行への事前相談を進める。
トラブル2: オフィスの契約で保証金が想定以上。 東南アジアの賃貸オフィスは保証金6〜12ヶ月分が一般的。数百万円が必要になる。対策: 最初はコワーキングスペースかレンタルオフィスから始める。
トラブル3: 採用した人材がすぐ辞める。 入社1ヶ月で辞める、というケースが珍しくない。対策: 試用期間中の評価基準を明確にし、複数候補を確保しておく。人件費の国別比較も参照してください。
事例: 食品メーカーH社のタイ進出タイムライン
食品メーカーH社(従業員50名)のタイ進出は、以下のタイムラインで進みました。
| 月 | 内容 |
|---|---|
| 1〜2月 | 目的の言語化。「タイ市場で日本食材の販売、3年後に売上5,000万円」と設定 |
| 3〜5月 | JETRO相談+デスクリサーチ+現地視察(タイ・マレーシアの2カ国) |
| 6〜8月 | タイに決定。JETROの委託調査+現地ディストリビューター候補との面談 |
| 9〜10月 | BOI認可法人の設立決定。事業計画の策定 |
| 11〜翌2月 | 法人設立手続き+オフィス契約+人材採用(3名) |
| 翌3月 | 営業開始。現地の日本食材取扱店への提案開始 |
合計14ヶ月。初期投資は約1,200万円でした。
事例: IT企業I社のベトナム開発拠点立ち上げ
IT企業I社(従業員12名)は、開発コスト削減を目的にベトナムに拠点を設立。EORを活用したため、立ち上げは以下の短期間で完了しました。
| 月 | 内容 |
|---|---|
| 1月 | 目的の言語化。「ベトナム人エンジニア5名を採用し、開発コスト40%削減」 |
| 2月 | EOR会社(Deel)と契約。LinkedInでエンジニアのスカウト開始 |
| 3月 | エンジニア3名を採用。リモートで協業開始 |
| 6月 | 追加2名を採用。5名体制で安定稼働 |
合計6ヶ月。初期投資は約200万円。EORを使ったことで、法人設立・ビザ・オフィスが不要になり、大幅に期間とコストを削減できました。
手順通りにやれば失敗しない、わけではない
手順より大事なこと
5つのステップは「何をやるか」の整理であって、「こうすれば必ず成功する」という保証ではありません。手順通りにやっても、現地の状況は刻々と変わるし、想定外のことは必ず起きる。
大事なのは「小さく始めて、早く学んで、柔軟に修正する」こと。完璧な計画を作ってから動くのではなく、70%の計画で動き出して、残り30%は現地で調整する。
僕たちが見てきた「成功する企業」の共通点
1. 目的がブレない。 困難に直面しても「なぜ海外に出るのか」が明確なので、軌道修正はしても撤退はしない。
2. 現地に任せられる人がいる。 日本からリモートで全てコントロールしようとせず、現地に判断を任せられる体制を早期に構築する。
3. 撤退基準を持っている。 進出前に「ダメならやめる」基準を決めている企業は、逆に大胆に投資できる。撤退の実務はこちらで詳しく書いています。
次のアクション
この記事で全体像が見えたら、次は具体的な情報収集を始めてください。海外進出の始め方、費用相場、業種別のポイント、コンサル費用の相場、BPOの活用も合わせてどうぞ。
「まだ何も決まっていないけど、海外進出に興味がある」という段階でも大丈夫です。こちらから相談してください。EONでは、ステップ1の目的の言語化から一緒に考えます。
よくある質問
- 海外進出の準備から立ち上げまでどのくらいかかる?
- 中小企業の場合、目的の言語化から現地立ち上げまで8〜16ヶ月が目安。EORを活用するIT企業なら6ヶ月程度で稼働開始できるケースもあります。
- 海外進出の最初のステップは何?
- 目的の言語化です。「なぜ海外に出たいのか」「3年後にどうなっていたいか」を数字で明確にすること。ここが曖昧だと、全てが中途半端になります。
- 候補国はどう絞り込む?
- 市場規模、コスト環境、規制環境、インフラ、人材、リスクの6項目でスコアリングするのがおすすめ。デスクリサーチ→専門家ヒアリング→現地視察の3段階で進めてください。
- 市場調査にはどれくらい費用がかかる?
- JETRO委託調査なら0〜50万円、現地コンサルへの委託で100〜300万円、包括的な調査で300〜500万円が目安。予算が限られている場合はJETRO+自社リサーチ+視察で十分な情報が集まることが多いです。
- 進出形態はどう選ぶ?
- 3つの基準で判断します。現地で売上を立てる必要があるか(YESなら現地法人)、初期投資を抑えたいか(YESならEOR/輸出)、外資規制はあるか(YESならJV)。迷ったら小さく始められる形態を選んでください。
- 事業計画に撤退基準を入れるべき?
- 必須です。「3年目に売上○○万円未満なら撤退」のように数字で基準を決めておくと、冷静な判断ができます。撤退基準があることで、逆に大胆な投資判断が可能になります。
- 現地立ち上げで最もトラブルが多いのは?
- 銀行口座の開設です。特にベトナムとインドネシアでは法人登記後さらに1〜2ヶ月かかることがある。法人設立と並行して銀行への事前相談を進めるのが対策です。
- 小さく始めるにはどうしたらいい?
- IT企業ならEOR(法人設立不要で現地人材を雇用)、製造業ならレンタル工場でのテスト生産、食品なら日本からの輸出テスト。いずれも本格投資の前に市場を検証するアプローチです。